前橋地方裁判所 昭和40年(わ)48号 判決 1965年9月30日
被告人 小暮良己
昭四・一〇・一五生 無職
主文
被告人を懲役一年六月に処する。
押収してあるブレザーコート壱着(昭和四〇年押第三六号の二)は、被害者穴沢長一に、押収してあるオーバー毛織白黒杉綾模様入り壱着(昭和四〇年押第三六号の一)は、被害者西村光次にそれぞれ還付する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和三九年一二月三日頃前橋市横山町二三番地株式会社つるや洋装店こと穴沢長一方店舖において、同店の入口より向つて右側店頭に陳列中の同会社所有の純毛フラノブレザーコート壱着(時価八、〇〇〇円相当)を窃取し、
第二 昭和四〇年一月八日頃前橋市立川町五八番地オリオン堂洋服店西村光次方店舖において、同店出入口附近のマネキン人形に着せて陳列中の同人所有のツイード白黒杉綾毛織オーバー壱着(時価九、八〇〇円相当)を窃取し、
たものである。
(累犯前科)
被告人は、(一)昭和三四年一一月四日足利簡易裁判所において窃盗罪により、懲役一年二月に処せられ、昭和三六年一月三日右刑の執行を受け終り、(二)その後犯した窃盗罪により昭和三六年一〇月二六日前橋簡易裁判所において懲役三年(未決勾留日数四〇日算入)に処せられ昭和三九年九月二三日右刑の執行を受け終つたものである。
(証拠の標目)(略)
(罪となるべき事実を認定した理由)
被告人は、本件各犯罪事実を全面的に否認しているが、次のような理由によつて本件各犯行は被告人の所為と認定する。
一 被告人が同人名義で昭和三九年一〇月一六日より昭和四〇年二月一九日までに入質した物品は合計二三点存在することが阿久沢英夫、林正己、中島斉作成の「窃盗被疑者の捜査について」と題する書面によつて認められる。
一 被告人の入質した物品の大部分が新品であることが証人阿久沢英夫の当公判廷における供述によつて認められる。
一 領置してある生地のとも切れ弐枚(昭和四〇年押第三六号の六)同商標マーク五枚(昭和四〇年押第三六号の一〇)及び共布、替ボタン中小二個入りセロフアン袋一袋(昭和四〇年押第三六号の一三)等により被告人は、品物の買主又は盗取者でなければ所持していないような生地とも(布)切れ、商標マーク、替ボタン等を持つていたことが認められる。
一 被告人の当公判廷における供述(第五回)及び被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和四〇年二月一九日付)によれば被告人は昭和三九年九月二四日網走刑務所を出所して以来無職であり生活費を得る手段を有していないし本件各物品は購入したものでないこと、および平素競輪、競艇に耽つて徒遊していたことが認められる。
一 証人阿久沢英夫の当公判廷における供述及び被告人の司法警察員に対する供述調書の写(昭和三六年八月二四日付)によれば、被告人は前刑の犯行により検挙せられた際も今回と同様極力犯行を否定したこと、そして共犯の情婦が被告人の犯行に相違ない旨を述べた結果やむなく服罪したこと、今回は共犯と考えられるものがないこと、本件被害物品は二回共ある人から貰つたものであつて盗んだものでないが入質は自分がしたと申し述べている、そしてその譲渡人は如何なる人物かについては答えられないと言うのみである。
一 堀田実及び安達正の司法警察員に対する各供述調書及び株式会社つるや洋装店(自昭和三九年二月一日至昭和四〇年一月三一日)の仕入帳(仕入先チクマアパレルの二〇頁)の写によれば群馬県内で本件ブレザーコートはつるや洋装店、本件オーバーはオリオン堂洋服店に卸したのみで他の店に卸していないことが認められる。
一 証人穴沢長一、同穴沢博の当公判廷における供述によれば、領置してあるブレザーコート壱着(昭和四〇年押第三六号の二)は、右穴沢長一の経営していた株式会社つるや洋装店より昭和三九年一二月三日頃盗まれたものであり、証人西村光次、同木村秀子、同小畑光義の当公判廷における各供述によれば、領置してあるオーバー毛織白黒杉綾模様入り壱着(昭和四〇年押第三六号の一)は、右西村光次の経営するオリオン堂洋服店より昭和四〇年一月八日頃盗まれたものであることが認められる。
一 証人木村秀子の当公判廷における供述によれば、被告人と横顔のよく似た被告人と思われる男が昭和四〇年一月八日頃、オリオン堂洋服店に現われ、立去つた後本件オーバーが店頭よりなくなつたことに気付いた、そして同日それ以外に不審な人物が同店に来なかつたことが認められる。
一 被告人の当公判廷における供述、真下久の司法警察員に対する供述調書及び江原義雄の司法警察員に対する供述調書によれば被告人自身が本件ブレザーコート、及び本件オーバーを入質したものであることが認められる。以上各証拠を綜合すると本件各犯行は被告人の所為に相違ないものと認定するに充分である。
(法令の適用)
被告人の判示第一及び第二の所為は、それぞれ刑法第二三五条に該当するところ、判示第一及び第二の罪は判示累犯前科と三犯の関係になるので同法第五九条、第五六条第一項、第五七条によりそれぞれ累犯の加重をし、以上は同法第四五条前段の併合罪なので同法第四七条本文、第一〇条、第一四条により犯情の重い判示第二の罪の刑に同法第四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処する。押収してあるブレザーコート壱着(昭和四〇年押第三六号の二)は判示第一の罪の賍物であり、オーバー毛織白黒杉綾模様入り壱着(昭和四〇年押第三六号の一)は判示第二の罪の賍物であつて、それぞれ被害者に還付すべき理由が明らかであるから刑事訴訟法第三四七条第一項によるブレザーコート壱着は被害者穴沢長一に、オーバー毛織白黒杉綾模様入り壱着は被害者西村光次にそれぞれ還付する。訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書によりその全部を被告人に負担させない。
以上によつて主文のとおり判決する。
(裁判官 藤本孝夫)